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もうひとつのサッカーW杯

二宮清純


   日本が4大会連続のサッカーW杯出場を決めた。
 実は私もW杯に出場したことがある。W杯はW杯でも、FIFA非公認の“草W杯”だ。

 1994年夏、私はW杯米国大会の取材で西海岸を中心に各会場をまわっていた。サンフランシスコのスタンフォード・スタジアムでブラジル-ロシア戦を観戦した直後のことだ。ゲートを出て木立を抜けると、そこには芝生が広がっていた。

 帰りのバスを待つ間、芝生の上でボールを持ってきたブラジル人がパス回しをしていた。誰かのドリブルがキックオフの合図となり、唐突にゲームがスタートした。
 ゴールはどこかから運んできたドラム缶2本。チームの分け方は裸組とシャツ組。子供もいれば老人もいる。人数制限はまったくない。

 そのシーンを遠くから眺めていて、無性にボールが蹴りたくなった。シャツを脱いで裸組に加わり、後ろのほうでチョロチョロとした。
 しばらくして、おもしろいことに気がついた。年配のブラジル人は皆、ペレになりきっている。子供たちはロマーリオだ。いつの間にかヨーロッパ人やアメリカ人も加わり、クライフやベッケンバウアーもいる豪華な試合となった。

 こうしてスタジアムの壁を1枚隔てた草むらで行われた“草W杯”は、帰りのバスが出払うまで、メンバーを入れ替えながら延々と続いた。
 ひとつのボールに人が集まり、輪ができ、自然発生的にゲームが始まる――。ボールゲームの原点がそこにはあった。

 芝は地平線の先まで広がり、ボールはどこまでも転がる。残念ながら日本には、このような環境が少ない。
 W杯日韓大会を取材するために来日した欧米のジャーナリストが首を傾げながら異口同音に訊ねていたことがある。ひとつは、日本の子供たちはいったいどこで遊んでいるのか。ふたつ目は、なぜ学校や公園に天然芝が少ないのか。

 日本は次の大会で「世界のベスト4を狙う」と宣言している。そのためにはまず、環境から「世界のベスト4」を目指す必要があるのではないか。最近、つくづくそう感じる。

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