正真正銘の“シートノック”
二宮清純
駅前に立つと現代日本が抱えている問題点が見えてくる。
まず目を引くのが消費者金融の看板だ。銀行が貸し渋りをせず、適性に融資をしていれば、ここまで街中が消費者金融だらけになることはなかっただろう。これは日本の金融政策の失敗を意味している。
次に目立つのが英会話教室だ。学校でしっかり英語によるコミュニケーションスキルを磨いていれば、わざわざお金を払ってまで習う必要はないはずだ。ここには日本の教育の失敗が表れている。
そして最近の駅前にはフィットネスクラブも多い。公共のスポーツ施設が充実していれば、高い会費を払って、走ったり、泳いだりすることもないだろう。日本のスポーツ政策の失敗を示す象徴的光景である。
ところが不思議なことに、公共のスポーツ施設や公園整備には多額の予算が充てられている。その額は年間約1000億円。トップアスリート向けの「国際競技力向上関係予算」が163億円(2010年度)だから、これだけをみれば、日本はスポーツの環境整備にかなりの力を注いでいることになる。
しかし、せっかくのスポーツ施設や公園が、利用者のニーズに合っていない単なるハコモノである点は以前も指摘した通りだ。加えていえば運営面も“お役所の論理”が最優先され、利用者は第一に考えられていない。「コンクリートから人へ」をスローガンに掲げた民主党政権になっても、まだ大きな変化は起きていないようだ。タックスペイヤーとして、私たちはもう少し声をあげてもよいのではないか。
ある県で天然芝の素晴らしいスタジアムが完成した時のことだ。「新球場でプレーができる」と地元の高校球児は楽しみにしていた。だが、その球場を球児たちは使えなかった。理由は「芝が痛むから」。子供たちの気持ちなど意に介さない木で鼻をくくったような対応だったという。
「みんな新球場のプレーを楽しみにしている。何とかなりませんか」
そう指導者が掛け合ったところ、こんな返答がきた。
「ならば芝の上にシートを敷いてください」
言われるままに芝にシートをかぶせ、ノックをした。後で、その指導者はこうボヤいていた。
「これが正真正銘のシートノックですね」
これはブラックジョークではない。本当にあった話である。
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